もっと速くなるためのトレーニング方法のヒントを国内外の本・雑誌・ブログ・論文などから(ほぼ)毎日紹介します。
◆トップクラスのクライマーとタイム・トライアル選手の違い 2011.12.01
参考文献:EDMOND R. BURKE博士著・『HIGH-TECH Cycling』・P282~284・Human Kinetic社
山岳ステージとタイム・トライアルはステージ・レースにおいて大きなタイム差がつきやすく、ステージ全体の勝敗の分かれ目になることが多い。どちらも一定のペースで長時間抵抗と戦う運動なので、求められる運動能力は同じようなものではないかと思える。しかしトップ・クラスの選手の調査・研究結果では、両者には多くの相違点があることが示されている。
まずわかりやすいのは、クライマーの方が重力と戦いに有利になるために「体重が軽くBMIが低い傾向がある」点だ(クライマーのBMI:19~20⇔タイム・トライアル選手:~22)。またVO2maxの値には体重が影響するので、クライマーは約80ml/kg/分、タイム・トライアル選手は約70ml/kg/分とクライマーのほうが高い値を示す傾向があった。
*酸素の摂取量が同じであれば体重が軽いほどVO2maxは高くなる
これら体重やBMI(体型)は、比較的わかりやすい点だが、他にもちがいがある。
研究所で、クライマーとタイム・トライアル選手について、VO2maxの80%の一定負荷の運動をした時の血中pH値*や、膝を伸ばす動きの筋電図を検証したところ、以下のようなことがわかった。
*乳酸処理能力や緩衝系の能力を確認するためのもの
まず筋繊維の動員比率だが、クライマーは筋繊維の動員比率が高く酸欠状態を和らげる緩衝系の能力が高かった。一方でタイム・トライアル選手は、パワー出力比に対する筋繊維の動員比率が低く、ペダリング効率がよかった。
これは、クライマーはRCP(呼吸性代償閾値・VO2maxの約90%)付近で一定ペースで上っている状態から100%VO2maxまで素早く加速できる能力があることを示している。またごく一部のクライマーについては、長い上りの途中に繰り返し最大強度の加速を行うことができるが、この種の動きは、無酸素運動容量(速筋繊維の動員能力)や緩衝系の能力が高いことによるものと推測される。
それに対してタイム・トライアル中は、運動強度がずっと限界付近(RCPかそれ以上)で一定に保たれることから、効率性がより重要になる。
このようにクライマーやタイム・トライアル選手の特徴を詳しく検証すると、生まれつき(体格が大きくなりやすいかどうか・体重に影響)の素質やBMIのような体型上の特徴だけでなく、トレーニングで培われる種類の能力の影響もひじょうに大きいことがわかる。その意味で、それぞれの能力を伸ばすためには個別に特化したトレーニングが必要になるといえる。
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<本件記事の参考文献>
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