もっと速くなるためのトレーニング方法のヒントを国内外の本・雑誌・ブログ・論文などから(ほぼ)毎日紹介します。
◆疲労が生じる理由を説明する3つの理論 2012.01.29
参照URL:Joe Friel's Blog・『What Is Fatigue?』
http://www.joefrielsblog.com/2012/01/what-is-fatigue.html
関連論文:Davis, J. M., and Bailey, S. P.
"Possible mechanisms of central nervous system fatigue during
exercise."
Medicine and Science in Sports and Exercise, 1997; 29(1):45--57.
Noakes, T. D., St. Clair, A., and Lambert, E. V.
“From catastrophe to complexity: A novel model of integrative central neural regulation
of effort and fatigue during exercise in humans.”
British Journal of Sports Medicine, 2004; 38(4):511-14.
Noakes, T. D. and St. Clair, A.
“Logical limitations to the ‘catastrophe’ models of fatigue during exercise in humans.”
British Journal of Sports Medicine, 2004; 38(5):648-49.
Noakes, T. D.
“Time to move beyond a brainless exercise physiology
: The evidence for complex regulation of human exercise performance.”
Applied Physiology, Nutrition and Metabolism, 2011; 36(1):23-25.
Marcora, S. M., Staiano, W., and Manning, V.
“Mental fatigue impairs physical performance in humans.”
Journal of Applied Physiology, 2009; 106(3):857-64.
Marcora, S. M. and Staiano, W.
“The limit to exercise tolerance in humans: Mind over muscle?”
European Journal of Applied Physiology, 2010; 109(4):763-70.
「もっと速くなりたい!」と思った時に大きな制約として立ちはだかるもののひとつが「疲労」だろう。疲労からの「回復力」には個人差があり、また練習前・練習中・練習後に疲労を極力貯めないような方法駆使しているかどうかも大きく影響する。しかし一言で「疲労」といっても、その原因はさまざまで科学的にも未解明な部分が多い。今回は、「疲労」が生じる理由についての3つの理論をジョー・フリール氏のブログより紹介する。
ジョー・フリール氏は多数の論文を参考にして「疲労が生じる理由を説明する3つの理論」を紹介しているが、それらは以下のようなものだ。
1.カタストロフィー(破局)の理論
2.中枢制御の理論
3.精神生物学の理論
1.カタストロフィー(破局)の理論は、その起源を1920年代まで遡る古いモデルで、ほとんどの運動生理学者に受け入れられている。この理論は「身体に(特に筋肉に)破滅的なことが起こった時に運動が停止する」と説明している。例えば「深刻な脱水症状」「オーバートレーニング」「乳酸生成時に発生する水素イオンの蓄積」「グリコーゲンなどエネルギー源の枯渇」といった状況が起こった時に、体がスローダウンする。自動車に例えると、「ガス欠になった」か「燃料の輸送パイプが目詰まりを起こした」ようなものといえる。
2.中枢制御の理論は、1990年に南アフリカのケープタウン大学のティム・ノアックス博士が提唱したもので、「疲労は筋肉でなく脳で起こる」と説明している。身体は運動中の筋肉の最新状況について絶えず脳に信号を送っており、脳は「エネルギー源のレベル」「代謝物の増加レベル」といったことを監視している。この働きは温度を監視して必要があればエアコンのスイッチを入れるサーモスタットの働きに似ている。ある時点で脳は潜在意識下で判断を下し、現在の状況からスローダウンさせるために「運動がきつい」と感じさせるようにする。この中枢制御の機能は、過度にハードな運動によって身体がダメージを受けないようにするために進化したと説明されている。
3.精神生物学の理論は、ウィスコンシン大学のサミュエル・マーコラ博士が提唱した比較的新しい理論だ。この理論では、「エネルギー源のレベル」や「代謝物の累積」といったものが危険なレベルまでに達するよりもかなり前に、潜在意識下の脳で「運動を継続するかどうか」の計算が行われるというものだ。これは問題解決に関する決定を潜在意識化で行う役割をもつACC(前帯状皮質・前脳の一部)の働きによるもので、「ACCはある強度で運動を続けるコストと見返りをつねに天秤にかけている」という。マーコラ博士は、疲労したアスリートが「見返りが十分に大きい」場合は、「運動が継続できない」という感覚を乗り越えて、より大きなパフォーマンスを出すことができることを示した。
ロード・レーサーであれば「ゴール前に来るまでは今にも力尽きそうだったのに、ゴールが見えてきたらスプリントする余力が出てきた」という経験をしたことがあるのではないだろうか。これは「少しでも良い順位でゴールしたい」「少しでも速いタイムでゴールしたい」という強い気持ちによって、「この苦しさは乗り越える価値がある」と判断されたことによるものと考えられる。
このシステムは、食料を獲得できる可能性が低い時はエネルギーを無駄に浪費しないようにするために発達したと説明されている。逆に「食料が現れ、獲得できる可能性が高い」となれば、苦しみもガマンできるようになるわけだ。
これらの3つの理論から読み取れることは、「疲労」とひとことで言ってもじつはさまざまな要因が絡んでいる可能性があるということだ。
例えば、レース終盤で足がなくなって先頭集団から千切れた場合の原因は「無駄に重いギアを踏みすぎたので筋グリコーゲンが枯渇してしまったから(カタストロフィーの理論)」かも知れないし、「集団にこのままついていってゴールしてもポイント上あまり意味がないと潜在意識で判断されたから(精神生物学の理論)」かも知れない。
肉体的な疲労については、レース前(ウォーミングアップを十分にするなど)・レース中(炭水化物や水分をしっかり補給するなど)・レース後(炭水化物とタンパク質を極力速いタイミングで摂取するなど)に疲労を起こりにくくさせる方法を駆使することで軽減を図ることができるだろう。
また脳が原因の疲労についても、3.については高いモチベーションを維持することで乗り越えられる可能性があるだろう。具体的には「頑張れば達成できそうな明確な目標を設定し紙に書き落とし、毎日見るようにする」という方法や「自分が成功した時を頭の中で鮮やかにイメージする」といった方法などがあるだろう(ライバルを常に意識して練習するのも高い効果が期待できる)。有名コーチやトップ・レベルの選手が「強くなるにはモチベーションがひじょうに重要」と口を揃えていうのは、「高いモチベーションが脳を原因とした疲労を乗り越えるのに役立つ」と経験的に知っているからかも知れない。
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